お坊さんの独り言

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棚経の恩恵

お盆の3日間、

お檀家さんのお宅を訪ね

仏壇でお経を唱える行事を

「棚経」といいます。

妙法庵の地元も含めて

この風習がない地域もありますが

私の師匠寺がある千葉県の房総半島では

連綿と続く夏の風物詩です。

 

お盆棚の供養でありながら

かつては「棚調べ」とも呼ばれ、

江戸時代のキリスト教禁止、邪宗門改めに

基づいて始まった行事ともいわれています。

以前、アンチ日本仏教の人から

「棚経は、お経の宅配便でしょ」

と嫌味を言われたことがあります。

果たして、そうでしょうか?

 

私は出家以来20数年間、

毎年お盆には師匠寺の檀家さん宅を

お経廻りします。

長きに渡り、各家庭の家族構成やら

ご家庭の事情を垣間見ますから

自然と信頼関係が構築されます。

 

初めて伺ったお宅では、

赤ちゃんだった女の子が

結婚されて子を持つ母になった、

あるいは大家族だったご家庭が

老夫婦のみの生活になった、

そんな場面を見たり聞いたりします。

 

長年のお付き合いから

様々な相談事に耳を

傾ける場面も出てきます。

なので、私はお経よりもお茶話の時間を

多く取るように心がけています。

 

「目は口ほどにモノを言う」

生きることに相当な苦しみを

感じている人ほど

救いを求めるまなざしが違います。

 

お檀家さんの中で難病と向き合っておられる方、

日常の悲哀に喘いでおられる方ほど

目の奥にキラリと光る求道心が

見えるのです。

精神疾患で対話も儘ならない方でも

正座をして合掌する姿が

生きることへの

真剣勝負なのです。

声を発さずとも、目の色が変わる

瞬間があって、棚経の雰囲気に

何かを感じておられるのです。

「ああ、魂が通じているなぁ。

 今年も伺って良かった」

心底、そう思うのです。

 

家族状況の変化で、お盆棚経も

減少してくるかもしれません。

しかし、棚経を通して仏事に触れ

そこから展開してくる

生きていく力への影響は

少なからずあると確信した

今回の棚経廻りでした。